第15回サイバー歌会 歌評

40 香りなき櫻靜かに咲く夜を赤き鳥居のややに傾く

「櫻」「靜」旧字体の持つ魔力を蔵している歌です。やや傾いている鳥居、ですから十分な補修のされていない、ひと気もなく寂れた神社なのでしょう。その境内に咲く櫻には香りがない、と詠っているところに、現実のというよりはあの世との境目に仄白く立っているような凄味を感じます。この櫻には確かに妖気が漂っています。
ただ、おそらくPCでは変換しきれなかったのだろうと思うのですが、できることなら徹底して全ての漢字を旧字体で表記していただきたかったです。(寺川育世)

上句の静謐を、下句がややもすればエロティックに受ける。全部ひらかなにして=音読して、非常にしっくり落ち着いた一首。なので、「櫻」か「靜」のどちらかを仮名にして欲しかった。(誰鬼)

「赤い鳥居が傾いている」少し寂れた感じが桜の美しさを際立たせています。エロティックとまでは思いませんが、上品な官能があります。(大屋邦子)

「櫻、静」この漢字から妖気が立ち昇るようです。無臭、静謐、傾いた赤い鳥居、凄みがあります。初句を旧字体、まさに表意文字を屹然と並べられてますね。作者はわざと固い漢字を並べ、あとをすーっと、落としてられる。この短歌自体が、傾きを印象づけています。この歌のアンバランスが、当に傾いた鳥居そのもののような気がします。 (みずき)

とにかく下の句にひかれました。実際に傾いているのか、作者の心象風景として傾いているのかはわかりませんが、その危うさのようなものを強く感じました。それだけに上の句の香りなく靜かな櫻の咲き方が多少もの足りなくも感じました。鮮烈な色と存在感を持つ鳥居が「やや」にではあっても傾くというのには、ちょっと清浄すぎる咲き方というか。でも、とても好きなお歌です。(萱野芙蓉)

うまくまとめられている歌なのですが、ちょっと理窟っぽいかなと思いました。「香りなき櫻」と「香りなく櫻」が咲くのとは少し違うし、そういう少し観念的な感 じの把握が気になります。この歌、上句の櫻のほうに重点があるのか、下句の「赤き鳥居」のほうに重点があるのか、なんとなく中途半端な感じが惜しいと思います。(春畑茜)

綺麗な歌です。この歌を読んで、桜には香りがないということを改めて思いました。櫻と靜の字が詰まっているようなので、このどちらかがかなでも良かったかもしれません。(近藤かすみ)

桜の花の下にいても香りは気になりません。無いのかなと思うのですがさくらの香りをほとんどの方は知っています。この季節桜の花が和菓子やゼリーに使われています。和菓子の道明寺は桜の葉で包まれています。その香りはこの季節ならではのものです。
咲いている桜の香りは微かですが香りを出す工夫をむかしからしてきたのでしょうね。 今、季節に合わせて桜の入浴剤を使っています。赤き鳥居が傾いているというのはお稲荷さんか何かの小さな鳥居でしょうか。傾いているのが大きい鳥居だと危険すぎます。赤い鳥居が傾いているというのは強い印象をうけます。香りなき櫻もひきつけるものがあります。どちらか一つにしたらもっとインパクトのある作品になったと感じました。むかし刑場だった場所にお稲荷さんがありその鳥居は低く小さく少し傾いていたのが整備されたりしたのを思い出しました。(mohyo)

情景がまざまざと脳裡に浮かんできます。情景として詠まれた歌とは思えませんが、今回の歌会の中でも情景を連想させる歌として抜群です。作者の桜に対する思いは「香りなき」と表現されるように、決して浮かれずまた酔わず、むしろ鎮魂と言ってよい系譜につながっているように感じます。その静けさを読み手に見事に伝えています。(象)

迫力のある作品です。旧字体の演出機能もでています。ややにの「に」が不自 然に思いました。語数合わせと思われてしまっては失敗。別のことばを見つけて欲しいと思います。(村田馨)

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