春日井建百首選(大塚寅彦選)
『友の書』
球は球を打ちて奔れるあやつられもてあそばるるは魂かも知れぬ
冷涼と来たりて冷涼と去(い)にしもの妄執の影ぞその後のわれは
月の光受けてきらめきゐたりけり可視なる精神のごとき粗塩
襟元をすこしくづせり風入れておもふは汝(おまへ)かならず奪ふ
白波が奔馬のごとく駈けくるをわれに馭すべき力生まれよ
今に今を重ねるほかの生を知らず今わが視野の潮(うしほ)しろがね
動かざる雲なりながら変りゆけり黄金はいつか色失ひて
涅槃より呼び戻すごとパソコンの液晶文字にタゴールを読む
汀には死面が浮きてゐたりけり手に取りてかぶらむとして失ひき
白(まう)すことなけれど天へ向けて咲く白花大いなる悲哀を湛ふ