春日井建百首選(大塚寅彦選)

『朝の水』

朝鳥の啼きてα(アルファ)波天に満つうたの律呂もととのひてこよ

着水は静かなれども軽鴨はおのづから生れし輪のなかに浮く

宦官の舌をよろこばせし茶葉の秋の雫のやうな滴々

天秤のかしぐか天を見てゐしにさらさらと銀河の水こぼれたり

母の椅子の先に置きある大鏡 つと入りゆきてつひに戻らぬ

てのひらに常に握りてゐし雪が溶け去りしごと母を失ふ

みづからが夜振りにゆらす火のやうな若者ら兵となることなかれ

一瞬の燦にかなはずそののちの彼が得しやも知れぬ永き生

前世来世見ることなからむわれなれば今をとことはとする言葉あれ

昼かげろふゆらゆら揺るる日向にて今年も会はむ咲えま)へる花に

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