春日井建百首選(大塚寅彦選)

『白雨』

鴨のゐる春の水際へ風にさへつまづく母をともなひて行く

死を宿し病むとも若さ大雪の朝の光を友は告げくる

雑木々は雨後の光にけぶりたち柔らかき浄衣ふはりとまとふ

ハザーラ人にわれは似るといふ天に近き高地にて風を追ひゐる民に

死などなにほどのこともなし新秋の正装をして夕餐につく

いづこにて死ぬとも客死カプチーノとシャンパンの日々過ぎて帰らな

またの日といふはあらずもきさらぎは塩ふるほどの光を撒きて

何もせぬために来し部屋潮騒がおしよせて眠りのうちに入るまで

自死の前の祖父と食みしよ悲しみの量かさ)とも実りし乳の実いくつ

朔の月の繊きひかりが届けくる書けざるものなどなしといふ檄

ページのトップへ戻る