2011年4月1日(長谷川と茂古)

さて、このたび中部短歌会HPの隅に歌評のコーナーが誕生しました。 3人が2週間交代で結社誌と総合誌から、ピックアップした歌について書いていきます。
 初回まずは、結社誌3月号から。

日本海を渡り来し黄砂漂ひて日もおぼろなり国おぼろなり 加藤嘉昭

先日夜のうちに降った雨が、ベランダや車のボディに黄色い跡を残していた。よくみると、なんだか湯の花(温泉の素)のようでもある。私の住むつくばは福島第一原発からおよそ200キロの距離。まさか、ねえ?と心配していたら、なんのことはない、スギ花粉とのこと。春、南風にのってやってくる黄砂も家の窓や車にその跡を残す。風に舞って景色も薄いフィルターがかかったようにみえることさえある。作者は、景色と同じく国というものもおぼろだという。2月、野田秀樹の『南へ』を観たのだが、国とは?日本人であるとは?と問いかける台詞があった。2011年3月25日現在、連日メディアに顔を出す政府首脳陣、東電トップ。‘あいまいな日本’ではいられないと、この歌に立ち止まった。初句の「日本海」が効いている。

ふと 雪は水たりしことおもふとき時はひそかに後退りする 近藤寿美子

作者は、雪になる前のことをふと思った。この、「おもふ時」はリアルタイムなのだが、思う内容が時を遡る。一首のなかで、ねじれの構造を作っているのが面白い。

大型のトラック行き交う交差点輪唱なして「左に曲がります」 稲熊千代子

大型の車には、人が巻き込まれないよう注意を促すために、右左折やバックする際に女性の声で知らせるのがある。大型車が多く通る交差点で、「左に曲がります」の輪唱となった。大型車のごつい印象と輪唱とのギャップも楽しい一首。

誌面変わって、「短歌研究」3月号より。

ひよどりはまつ黒き糞あまた残し去りゆけりここよりは住みよき国に 馬場あき子
ひよどりが椋の梢(うれ)より電線に移りはたして糞おとしたり 森山晴美
はるかなるこゑを聞くかも糞をするたびやみくもに猫は奔れり 小島ゆかり

私は特にスカトロジーを好む、というわけではないが、何故か今回‘糞’の歌に注目してみた。2月初旬だったか、自宅ベランダの手すりに鳥糞の等差数列を発見。糞といってもほとんど赤や白い木の実なのだが、中には確かに真っ黒いのもあった。なるほど、あれはひよどりのか。こうして三首並べてみると、単なる‘糞’を淡々と歌にした森山氏のがいかにも‘糞’らしい。・・・らしいって、やはりスカトロ好きか。初回なのに。


歌評(月2回更新)

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