2011年4月15日(紀水章生)

結社誌三月号・角川短歌誌四月号より

まず中部短歌結社誌三月号より。

手放してひとすぢ光る銀色の放物線の後の風音 吉田光子

表現から金属の動きはスローモーションのように感じられ印象的だ。そして、これがもし指輪やペンダントなどのアクセサリであれば俄然ものがたり性を帯びてくる。

運命鑑定の船の家あるこの河畔ロシアンブルーの猫がふくらむ 中村孝子

外国には船で水上生活をしている人たちがいるがそういうことなのだろうか。
下句の猫との取り合わせが絶妙で印象的な絵になった。

ICUの扉ひらけばわが胸に溜まれる月のひかりは消えつ 中畑智江

連作の中の一首であるが、この作品だけで読み手にどう受け止められるだろうか。聞いてみたい作品である。「溜まれる月のひかり」には、どうしても命や魂を連想してしまう。作者にはそれが見えているのかもしれない。

次は角川短歌誌二〇一一年四月号「若手歌人たちは今」という特集より。

秒針はこつこつと弧を描きつつ時に競走馬とすれ違ふ 石川美南

時計の秒針は心理描写をするときにクローズアップされてくることが多い。秒針は速く動くのに、さらに速そうな競走馬とは一体何か?石川美南さんにはきっと不思議な物語がいっぱい詰まっているのだろう。また石川美南さんはNHK短歌でよく朗読者を務めておられ、その声にはいつも聞き惚れてしまう。

噴水に腰かけ授乳をしてゐたる女はみづのつばさをまとふ 山田航

実景としても美しいが、その上に重なるようにマリア像が浮かび上がってくる。それを呼び起こすのが「みづのつばさ」のフレーズ。

痩せぎすの馬がスプーンの柄に彫られ駆け出しそうなさびしさにいる 大森静佳

上の句でていねいに描かれたスプーンの姿と「駆け出しそうなさびしさ」が響き合い、この情景の陰影を濃く深くしている。

歌評(月2回更新)

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