2015年4月1日(長谷川と茂古)

3月29日に行われた「第9回 与謝野寛・晶子を偲ぶ会」に参加した。これまでにも何度か会を聞きに行ったことがあるが、「明星」を創刊した与謝野夫妻を中心に周辺の関係者たち、時代状況など多方面からとらえている。今回は、上田敏にスポットをあてた内容であった。上田敏といえば「海潮音」。そのほとんどが「明星」に掲載されていたことなど「明星」との関わりを松平盟子氏(プチ★モンド)が、上田の訳がいかに古典の素養を背景としているか等については大田美和氏(未来)が語った。「海潮音」が与えた影響は啄木、白秋へと続く。また、訳詩のなかでイギリスのものを取り上げて、自身が訳したものと上田敏のそれを並べ、詳しく解説した大田氏の話も興味深く聞いた。どこかの総合誌で、会の内容について掲載されると良いと思う。

結社誌3月号は、第五回中城ふみ子賞を受賞した中畑智江さんの第一歌集『同じ白さで雪は降りくる』の書評特集が組まれている。松平盟子氏による「日常の中に見出す鮮明な詩」と古谷智子氏の「われという謎」。この二つの評論と六名の一首鑑賞が掲載されている。中畑さんは現在、「歌誌遊覧」というコーナーを持ち、全国のあらゆる歌誌を一冊ずつ取り上げて紹介している。丁寧な読みと特徴を捉えた文章が、読みやすく書かれている。是非、多くの方に読んでいただきたい歌集(結社誌も)である。
さて、歌評はこの3月号から。

ほのじろき翼となりしことのはを琥珀の石に封じてをりぬ    雪村 遥

琥珀には、その時代の虫や葉などが閉じ込められていることがある。葉から「ことのは」の連想と、「翼」をもって長い時間をこえて送られたメッセージが琥珀のなかにあるようでおもしろい。琥珀を手にとったときの過去からの声、というのではなく、現在の作者の声を未来に託しているような結句にも注目した。

媼らが午後の茶房に語らへり「百まで生きてリニアに乗ろうよ」  勝又祐三

中央新幹線は東京-名古屋間を40分で運行し、2027年に開業を計画している。時速500キロというからなんだか想像もつかない。眼目は「百まで生きて」と話しているのが、「媼」というところだ。2027年に百歳とすると、現在88歳くらいだろうか。まあ最高齢だとしてという計算だから、80歳前後の方たちかもしれない。2013年の日本女性の平均寿命が86,6歳。今後も長生きの記録更新は続くだろう。あともう一点、注目したいのは「午後の茶房」である。喫茶店のサービスの充実ぶりは名古屋が一番だと筆者は思う。有名なのはモーニングサービスだが、お昼を過ぎて珈琲を注文したら、あられとか、別の店ではクッキーがついてきて驚いたことがある。スタバなどのチェーン店、あるいはコンビニがわが世の春を謳歌している現在、若い人ばかりでなく、地元に根付いてゆっくりとおしゃべりを楽しめる喫茶店の在り方がいい。

総合誌は、「歌壇」4月号。歌評と題しながら、今回は評論の紹介をしたい。「歌壇」は今月号から古谷智子「胸もゆるかな―片山廣子ノート」の連載がはじまった。片山廣子、というより松村みね子の筆名のほうがピンとくるかもしれない。筆者も松村みね子訳のイエイツやダンセイニを読んだことがある。昨年放映された朝の連続ドラマの主人公、村岡花子とは東洋英和女学校の同窓である。ドラマでは片山廣子の登場はなかったようだが、花子を翻訳と短歌へ導いたのは、片山廣子の影響が大きい。片山の名前を検索すると(漫才のナイツみたいだが)、芥川龍之介との関わり、堀辰雄の小説のモデル等といった記述に出あう。これまでも、辺見じゅん「ロマネスク・片山広子」、北沢郁子「片山広子―野に住みし人」、佐藤弓生「片山廣子と松村みね子の狭間で」といった文章が書かれているが、古谷智子さんの描く片山廣子像が楽しみだ。

歌評(月2回更新)

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