2012年3月1日(鷺沢朱理)
本誌二月号は十首詠の特集。今回はその中から気になる作品を取り上げてみた。
耀へるひかりの量に怯みつつ海の眩輝(グレア)に眼をそむけたり 近藤寿美子
「グレア」とはものの見えずらさに関わるまぶしさのことである。私は短歌にどう光が詠まれてきたかという歴史に興味があるのだが、この歌のひかりの捉え方も面白い。海の輝きを歌った歌はあまたあるが、圧倒的な光の量に怯んだという所が印象的である。ただ、「耀よへる」「ひかり」「眩輝(グレア)」や「怯み」「そむけたり」が重複している点が残念。光の圧倒的な耀きの感じを言葉で表現して、読者を文面からでも実際に眼をそむけさせるぐらいのインパクトを持たせるにはどんな工夫がいるだろうか。
石舞台の被葬者蘇我馬子とぞ生臭き風のありとしもなく 中村孝子
石舞台は飛鳥歴史公園内にある七世紀頃の方墳で被葬者は明らかではないが、推古朝の朝廷の実力者蘇我馬子と推定される。「ヒソウシャソガノウマコトゾ」というそっけない断定の後で、崇峻天皇や物部守屋を冥府に送られた血なまぐさい歴史の風があたりに漂う。「ありとしもなく」という虚辞めいた言い方もおもしろい。ほかの歌もぜひ読んで欲しい。
石室に立てばじねんと身の竦む四方よりたれかに狙われしごと
あまたの説ありたる酒船石なるもその巨きさの醸すaura(オーラ)
『歌壇』二月号は歌壇賞の発表号。本年の受賞者は平岡直子。
海沿いできみと花火を待ちながら生き延び方について話した
失われた二十年を経て、現代の若者は内向き志向、安定志向になっていると言われているが、恋人?と花火を待ちながらなんとなく考える不安が「生き延び方」という言葉によく現れている。言葉の切迫感と場面とのギャップは現代の短歌の特徴とも言える。