2013年3月15日(長谷川径子)
大陸からの黄砂が飛来し、花粉が舞う季節、今年はPM2.5という汚染物質もやってきているという。なやましい春である。
中部短歌3月号より
戦ばかりの昭和を長く見てきたるこの高野槇真直ぐに立つ 加藤嘉昭
戦ばかりを見たのは、高野槇であり、作者自身であろう。じっくりと昭和を生き抜いていまに至る思いの深さが歌に滲みでている。真直ぐに立つが清々しい。
子のころの好きな魚釣り記されるは『病状六尺』五十五の段 中山哲也
『病状六尺』五十五段に,子規は魚釣りのことを記している。多学、博識の詠める歌である。
水打ちて街道照りて光るなり道行く人の影長くして 中濱郁雄
店番の楽しさ生くる日々にして有松絞りの話はずめり 同
有松絞りを生業にされておられる歌である。水打ち、街道、有松絞り、いずれもなつかしき日本の美である。店番の楽しさとストレートな歌い上げが快い。
腹を割って話をすれば友だもの分かり合へるさ博多めんたい 鈴木寛子
底抜けの青空のようなあっけらかんとした明るさ。ベテランの自在な歌である。博多め
んたいにワープするぶっ飛び方に脱帽です。
「おかえり」と云わねどクロは車庫の隅C・T結果は妻には言えぬ 山田峯夫
検査結果、猫には言っただろうか。妻には言えぬに夫婦のおもいやりが溢れる。
年賀状に大きく明るく弾みをり「結婚しました」七十七の友 村井佐枝子
七十七歳過ぎたる新姓まぶしかり パソコンの姓を訂正なさねば 同
この歌も明るい歌である。七十七、ラッキー77。日常の細かい身巡りからこころをほぐす歌を掬いとる、キャッチ感覚が冴えている。
中部短歌の先輩方、ベテランの方の滋味深い歌を今月も沢山堪能させていただきました。
短歌研究3月号
作品連載 かなしき玩具譚3おしゃれキャット 野口あや子
友達に励まされてはないているじぶんひとりじゃいきていけない
頑張ってる女の子とか辛いからわたしはマカロンみたいに生きる
なるししずむというささやきよいつまでもじぶんのためにいきていきたい
猫に重なるのは二十代の女子のすがた。いきていけない、生きる、いきていきたい、 生きるという言葉が連続する。生きがたい世代なのか、全身で歌を詠む若い歌人の傷みを思ってしまった。
歌壇3月号
巻頭作品二十首 主語を思ふ 大塚寅彦
電光板戦禍のニュースかき消えて地下鉄は来つ<平安通>に
慰霊碑に凍てつく雪や<過ちは繰り返しませぬ>その主語を思ふ
平安通は寅homeの近くの駅、時代を世界を俯瞰しているかのごとき視線である。