2011年9月15日(宇都宮勝洋)
「大震災に対して、短歌で何ができるか。」という問いに対しては、「短歌は、はなはだ無力である。」と答えるしかない。被災者の方に、短歌を読むような機会があって、その時に「ああ、この短歌、いいな。」といって、ほっとしてもらえることがあると良いと思う。
[中部短歌会『短歌』8月号より]
尾があらばしなやかに振らむ言葉では伝えきれざる感情のため 近藤寿美子
「もうこれはしなやかに尾を振るしかない感情」というのは、抽象的だが、抽象的だからこそ、「自分にも、そんな感情、あるある。」と共感する。
起きぬけの窓よぎりゆく飛行船ことばがき無き絵本のように 洲淵智子
現実の朝、窓をゆっくりとよぎってゆく大きな飛行船は、そのまま、絵本の世界の劇的な始まりの場面の飛行船につながってゆく。「起きぬけ(起きたばかり)」いう言葉も、夢の続きを見ているような感じに、一役買っている。
おーいトンビ!たまには腹を天に向け背泳ぎよろしく飛んでみないか 林瑞人
トンビに声をかけているのだが、深読みすれば、自分や他の人に、発想の転換を呼びかけているような感じも受ける。口語のかろやかな調子が内容に合っている。
[本阿弥書店『歌壇』9月号より]
わが視野に飛びきて返りゆくまぎは雪白の腹を見せたり つばめ 大熊俊夫
一瞬をとらえた「雪白の腹」が印象的な作品。結句を一字空けて句割れとし、最後に主語を持ってきた倒置法も効果的である。
三歳の甥の足裏なでながらひよこまんぢゆうみたいと娘は 福井和子
娘さんの言葉を作品にしたものだが、ひよこまんじゅうのような足裏がとてもかわいい。