2011年8月1日(長谷川径子)
『中部短歌』7月号と、『短歌研究』8月号より
『中部短歌』より
不幸とはジリジリでなく突然になってしまうものだと思った 大澤澄子
口語の一気に読み下した文章が、三十一音にぴったり納まっている。ジリジリという音がよく響いている。
蒼天に花は咲き盈つ 人は今哀しみの楽器なれど歌はず 神谷由希
蒼空、花の季節なれど、今は歌わず。鎮魂の歌であろうか。今は歌はずが沁みる。
八時五十八分そよ風一一七(いいな)号ぷあーんと発車の気笛を鳴らす 和田悦子
八時五十八分の時間表記、、そよ風一一七(いいな)号の表記、数字が並ぶが、いいなの読み変えが愉しい。ぷわーんという発車音が歌を膨らませている。
送り来し海外旅行のDMを眺めて閉ずる妻を憐れむ 内海康嗣
病気療養中の妻にこころを寄せる歌である。眺めて閉ずるの具体が胸を打つ。
風に舞う落葉と思い見て居しが横歩きしてあそぶ小雀 鈴木温枝
じっくりと観察された歌である。横歩きに遊ぶ小雀を見て作者も愉しんでいる。
丁寧に包装されたる三冊の『裸樹』あり『未青年』の歌二首が載る 井澤洋子
春日井建の若き日の『裸樹』に『未青年』の歌が載る、丁寧に包装されたがいい。
膝痛のきのうは低音今日フォルテ ふっと忘れる時もありたり 間宮佐和子
膝の痛みを、低音、フォルテで表現する。痛み具合がよく伝わってくる。
『短歌研究』より
小さき実のあまた落ちゐる青柿のいくつかは踏む朝の出がけに 永田和宏
一連、河野裕子さんへの挽歌の間に挟まれた青柿の歌が、生活の背景を染めている。
柿の花糸引くやうに落ちてきてサンダル履きの足元にもひとつ 小池光
此の歌も挽歌の一連にあり、糸引く柿の花は、こころを残すごとしみじみ美しい。
柿の花散りて水面に浮き出でし緋鯉の大き口に消えたり 古谷智子
「日々の平穏をよむこと その難しさ」特集の一首、普段の風景の中の鮮やか一瞬。