2011年6月1日(紀水章生)

結社誌五月号・角川短歌誌五月号より
まず中部短歌結社誌五月号より。

ひたりひたり苺の蔕をとりながらシンクに落ちていく過去がある 近藤寿美子

細やかな描写から始まるこの歌、ずらしが効いていて、いつのまにか異空間に立たされる。ゆったりとした時間の流れも魅力的。

地球儀の傾き地球の傾きとずれて世界は右へ傾く 堀田季何

傾きが三度。ずらしつつリフレインしながら謎かけのように読み手をいざなう。

テレビでは報道されない真実が巷に溢れ内部被曝す 菊池裕

緊迫感をはらむ歌。読み手の立ち位置を揺さぶり、この世界の再認識をせまる歌。

喪失の淡い渋さがあつていい犬が振り向きざまに微笑む 菊池裕

さりげなく描かれた犬。それなのに、ただの犬以上の存在のように感じられてくる。

次は角川短歌誌二〇一一年五月号の「題詠改札を詠う」安森敏隆選より。

指先をするりと抜けて改札をわれより先に切符が通る 青森県 木立徹

言われてみれば確かにその通り。また描かれた切符の軽快な動きに心地よさを感じる。

四季の風それぞれ通して静かなり木造駅舎の改札の陽は 北海道 手塚春世

懐かしく温かい風景。「陽は」がよい。

改札をこえれば何処へでもゆける空のかなたに線路はつづく 東京都 誉田恵子

目の前にひろがりのある眺望がひらけてくるような魅力的な一首。

警報音、自動改札に閉ざされて罠にかかりし兎の気持ち 愛知県 内川愛

電車によく乗る人なら誰でも一度は経験することだろう。下句のオチがふるっている。

最後に同五月号「鳥柱」より印象深い歌を。

鳥柱この世につづくまたの世のあるごとく空を捩りていたり 永田紅

歌評(月2回更新)

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