2019年1月15日(長谷川と茂古)

先日、久しぶりに中川晃教主演のミュージカルを観た。日生劇場で上演されている『フランケンシュタイン』だ。歌い方が随分変わったなあというのが第一印象。天草四郎を演じた『SHIRO』、『モーツァルト!』、『OUR  HOUSE』、ガルシア・マルケス原作のおとぎ話のような『エレンディラ』等を観たときは、アッキー(中川晃教)はまだ20歳を過ぎたばかりの頃だったわけで、37歳となった現在と比べて変化があって当然なのかもしれない。一番の違いはしゃくりが無くなったことだろう。落ち着いた歌い方の現在も伸びやかな声は健在で、以前の若さ爆発!といった表現は今となっては懐かしい。次の出演作品は、日本発オリジナルミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』。ボルジア家の話は塩野七生の本でよく読んだものだが、このミュージカル原作の漫画は未読である。人気作品らしく、チケットがとれるかどうか。

さて、歌評へ。結社誌は一月号から。

わが内に語りつくせぬ夏ありて海の彼方にひらくパラソル    吉村実紀恵
純血の馬馳せゆかむ空のはて少年院は取り壊されて
読みさしのリルケは土の匂いしてひとつの生に収まりしわれ
終電に目を閉じており「前向きで明るい人」の役目を終えて
一度きり抱いてくれたら砂になる世界でいちばんきれいな砂に

2019年、短歌賞を受賞された吉村さんの連作「世界でいちばん」から五首をひいた。働く女性としての現実、少女期、恋の記憶を中心に描かれている。一首目、「語りつくせぬ夏」は、砂浜にいて、ではなく「海の彼方に」遠くへ流されたように「ひらくパラソル」となる。二首目の「血」「馬」「少年院」がでてくる歌はすぐに春日井建先生を思い出す。また、この三十首からなる連作には「リルケ」が二回登場する。作品名こそ出てはこないが、『ドゥイノの悲歌』が通底にあるような印象を受けた。四首目、終電に乗るまで「前向きで明るい人」を演じるのは大変だ。「役目」とは、相手との関係性であったり、その場のなかで誰もが背負うものだろう。五首目、一読『人魚姫』を連想した。人魚姫は恋をあきらめ相手の幸せを願って海の泡となったが、もし恋がかなったとしたらどうか。幸せに暮らしましたとさ、とはならず、この歌のように砂となってさらさらとこぼれてしまうのではないか、などと思った。吉村さんの歌を読むと、海を眺めているような、波の音が聞こえてきそうな感じになる。このたびの短歌賞ご受賞、誠におめでとうございます。中部短歌同人として、また新たな歌集を是非編んでいただければと思います。

湯のたぎる南部鉄瓶の音さやか一羽の雀の庭を過ぎれり    安藤なを子
悔いのこる子へのひとこと煮えばなの味噌椀に浮く手まり麩いくつ   同

一首目、作者は庭にいるのだろう。鉄瓶の、湯の沸く音がしている。聞いているのは、作者と一羽の雀である。湯を沸かしているあいだのちょっとした景色をとらえた作品。聞こえたとはいわないところに作者の才を感じる。二首目は、子どもについ余計なことを言ってしまった後悔。食事をするとき思わず「ああ」と思い出す。もしかしたら、「手まり麩」は子の好物なのかもしれない。手まり麩の浮く「煮えばなの味噌椀」が、後悔の念とは裏腹にとても美味しそうだ。

風吹けば明日には散る木の葉なれ地に埋まりてまた木木育つ    土川誠子
野茨の赤き実のつく一本を窓越しに見て友と別れぬ          同

「紅葉散る」から二首を引いた。友、遠方より来る。季節は晩秋、美しく色づいた葉も少しずつ落ちてゆき地にかえる。時を経れば土の養分となって、またもとの木の一部となる。友人と会って話すことで元気をもらい、ふたたび会うことを約束して別れた。赤い実のついた野茨と去ってゆく友人の背を一枚の絵のように切りとった二首目。作者はこの景色を心に抱いて巡る季節を過ごすのだろう。

政治家は全員偽善者ではあるがそれでいいちゃんと偽善をすれば
松木 秀『色の濃い川』

真っ当な、あまりに真っ当な意見だ。善い人間でなくても、社会にとって良い行いをするのが政治家。広げると、人には社会的役割がそれぞれにあり、その役割をきちんとしようよ、ということになる。『色の濃い川』はあとがきによると「第四歌集ですが、第一歌集でもあるつもりです」と書かれている。

建前のなんと大切なことだろう本音ばかりの大統領よ

今の米大統領のことである。この歌はそのまま著者にもあてはまるのではないだろうか。読んでいると、直球のストレートがばんばん飛んできて、ひりひりとしてくるのだ。

泣きながら生れてきたが笑いつつ死んでいってもいいではないか
上に行く→一番上になり下を害する→下にやられる(戻る)
アニソンによく出る「全て」という言葉本当はすべてではいけない
深夜には健康グッズのCMをやっているけど観るよりは寝ろ
平和なる大きなデモの現場にて兵馬俑(へいばよう)のごと警官の立つ
穂村弘よりも年下 枝野幸男立憲民主党代表は
永遠に待合室にいるような気持ちで晴れた夏空にいる

歌評(月2回更新)

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