2011年11月15日(長谷川と茂古)
商店街やデパートは、クリスマスの装飾でにぎやかになった。結社誌は、原稿の締切が掲載月の2ヶ月前であるから、11月号、といっても残暑のころの歌が多く並ぶ。
鉄色の大玉水瓜置く夜のキッチンは爆発まへのしづけさ 坪井圭子
鉄球に擬(まが)ふ水瓜が呼び覚ます浅間山荘のとほき出来事 〃
最近は、スーパーでもよく見かけるようになった‘でんすけ’。縞模様のない、ほぼ黒色のスイカは、普通のスイカに比べ圧倒的な存在感を持つ。一首目、台所に置いたときの違和感が爆弾を連想させ、二首目では鉄球となった。鉄球といえば、クレーンに取り付けたのを建物にぶつける中継画像にくぎ付けとなった浅間山荘事件。カップヌードルの販売促進に一役買ったとか、多くの関連本が出版され、映画にもなっている。スイカから浅間山荘事件へ、作者の想起に引っ張られる面白さがある。
すっくりと曼珠沙華の茎のび立ちて深紅の花を支えておりぬ 宮沢 実
確かに、あの薄緑色の茎の細さでよく支えているなと感心する。主役の花を支えるために「のび立」つ茎の、まっすぐな姿も美しい。
高みより球児みまもる夏雲や「お~いセキランク~ン」と呼ぼう 山下浩一
下の句の底抜けの明るさがいい。球児たちの汗にまみれたプレーと、積乱雲の天空にもくもくと盛り上がる強さが引き合う。今は昔、「お~い」と言えば、 「中村くん」だった。
続いて、角川短歌賞を受賞した立花 開「一人、教室」より
しあわせを探しに行ったチルチルとミチルのようにちょっとそこまで。
「夏行き」のチケット買って飛び乗った快速特急 座席は「青春」 立花 開
高校3年生にしては、幼さの残るような一首目。若さで詠い切った二首目。とても初々しくて、わたしのようなおばさんには眩しい。周囲が望む高校生像を巧く作り上げている。「師ではなく男であったやわらかな絹のような髪風まかせの君」、先生への恋心というポイントもきっちり押さえてある。そして儚くも終わってしまった切実感をにじみ出すところ、上手い。
さて、佳作には○が二つついた、中部短歌の中畑智江「さみしい貝」が入選している。
ゆで卵割れた殻からぷっくりと白身はみ出し「人生」と言う
半月はさみしい形 無意識に視えぬ半分探してしまう 中畑智江
卵をゆでる時、気付かなかったひびから白身がはみ出してしまうことがある。先のことなんてわからないよ、とぷっくり言われているようで、「人生」という教訓めいた言葉に不思議感を持たせた独特の世界をみせる。二首目、半月のみえない方を見ようとすることで切なさ、苦しさを表現。さまざまな技巧を駆使して練られた連作だと思う。選者の‘秀歌が多い’というコメントに納得。