2011年7月15日(紀水章生)

結社誌七月号・角川短歌誌六月号より

まず中部短歌結社誌七月号より。

痛まねば臓器の位置など思わざりみぞおち辺り病める列島 森治子

臓器から列島へという視点の移動には驚いた。列島の痛みがひしひしと感じられる。

ベランダの簀子の釘がきらきらと無数の光撒く五月晴れ 木下容子

ベランダにこんな光を見いだせば、きっとしばらくは幸せな気分にひたれるだろう。

失明のわが犬なれどほのぼのと尾を振り春の川辺を歩む 井上恒子

幸せかどうかは気持ちの持ちようということが一枚の絵になったよう。素敵な作品だ。

夕暮れは息吐くたびに深まりてさびしき人の短歌(うた)読み返す 太田典子

「息吐くたびに深まりて」の表現にぐっとひきこまれた。

次は角川短歌誌二〇一一年六月号の作品七首のなかから……。

「うさぎの耳」中井守恵(短歌人)の一首め

えんぴつできみが描きし絵の中のうさぎの耳に触れたりわれは 中井守恵

おそらく、うさぎの耳は敏感だろう。たとえそれが絵の中のうさぎであったとしてもその敏感さにかわりはない。そこにあえて触れる…という物語。

「命みなぎる」田中拓也(心の花)の二首め

白鳥になれぬアゲハが水面を眺めておりぬ羽を揺らして 田中拓也

白鳥になりたいかどうかはアゲハに聞いてみなくてはわからないが、水面で羽を動かしているアゲハの動きは優雅に見えるだろう。水面に姿を映すとき、白鳥もアゲハもともに美しく、ナルシズムを感じる一首。

「すいへーりーべーけふこえて」大里真弓(星雲)の七首め

僕と君すいへーりーべーけふこえて土天海冥つながっている 大里真弓

ほとんど死語になっているのではないかと思っていたなつかしい言葉。ぼくときみは手をつないで宇宙へふわふわと飛びたっていくのだろうか。

歌評(月2回更新)

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